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2011-06-03

TPP参加の議論が少なすぎる|TPP亡国論 第1章



寝る時間がちょっと微妙な感じなので、今読みかけている『TPP亡国論』を少しだけ整理してみようと思います。


1.TPPとは何か

東北大地震でやや吹っ飛んでしまった感のあるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)とは一体どういうものなのか。
スタート時の加盟国を見るとその性格が見えてきます。
なお、資料は内閣官房作成の「包括的経済連携に関する検討状況」という資料。

TPPがスタートしたのは2006年。
その時の加盟国は、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの四ヶ国で、その四ヶ国の間で締結された自由貿易協定が発端となっています。
TPPは、この四ヶ国間自由貿易協定を、広く環太平洋諸国に拡大しようというものです。
そして、その性格は関税は全品目について撤廃を目指し、対象もサービス、金融、人まで含む包括的な協定となっている、自由化の程度が進んだ協定と言えます。

2010年、この四ヶ国にアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナムが加わり、八ヶ国でより広域的な連携協定を目指すTPPの交渉がスタートしました。
さらに2010年10月からはマレーシアも加わり、9ヶ国で議論が進んできたというものです。

TPP交渉国で、日本の輸出相手となり得る国があるでしょうか。
アメリカ、オーストラリアくらいではないでしょうか。
その他の国は経済規模の小さな国々で、日本への期待は「日本からのメイドインジャパン製品の輸入」ではなく、自国商品を購入してくれるジャパンマネーではないでしょうか。
図2 TPP交渉参加国のGDP規模の比較(TPP亡国論,P.32)



2.なぜ日本が飛びついたのか

自由化の度合いが強い、急進的な協定になぜ日本が飛びつこうとしたのでしょうか。
それは、自由貿易協定(FTA)に出遅れた、と認識されているからです。
とくに、主要貿易相手国であるアメリカ、EU、中国との取り組みが遅れています。他方、韓国はこれらの国と積極的に交渉し、アメリカとは合意に至っており、それが「出遅れている」という認識につながります。

ちなみに、日本が進めているEPA(経済連携協定)もFTAの一種ですが、二国間あるいは複数国感の協定で、協定から除外する品目なども含め、柔軟な交渉によってお互いの国の実情に応じたルールづくりがしやすいものです。
EPAと比べると、急進的なTPPは品目除外等は原則認められないだろう、という推測がされています。


3.TPP参加が「開国」 不参加が「鎖国」なのか

TPPへの参加に関する議論としては、開国か鎖国かといったような論調も見られました。日本経団連の米倉会長は参加しなければ日本が「世界の孤児になる」と放言したこともあるようです。
開国・鎖国という単純化した話は馬鹿げていますが、それでも開国・鎖国を客観的に判断するとすれば、貿易を行っているかどうか。さらに貿易時の関税率などから推測できるのではないでしょうか。

ということで本書では主要国の関税率を示しています(下図)。

図1 主要国の関税率(TPP亡国論,P.26)

まず、全品目平均について見てみると、日本はEUよりは高いもののアメリカよりも低い関税率しかかけていないことがわかります。
韓国は一目瞭然ですね。

次に、農産物の関税率について目を移すと、アメリカよりは高いけれどもEUや韓国よりは低いことがわかります。
(この点について本書では、農産物の関税率試算方法は複数あるので一概には言えない、と指摘)
むしろ、しばらく前に話題になっていた食料自給率を思い出してみましょう。
約4割、38%という数字があったと思います。これは逆に言えば、食糧の6割は諸外国から輸入している、ということになりますね。

関税率の低さ、食料自給率の低さ(笑)から見て、日本は「鎖国」といえるのでしょうか。
またこのような状況下でTPPに不参加を選択すると、それも「鎖国」となるのでしょうか。

参加しないと「世界の孤児」になるのでしょうか。


4.TPPに参加するメリット

国はTPPに参加することで得られる、期待できるメリットのひとつに、成長著しいアジア市場を取り込む、というものがあります。
しかし、一般的に「アジア市場」といったときに想起されるのは、中国、韓国あるいはインドといった国々ではないでしょうか。

しかし、これらはいずれもTPPに参加していませんし、本書では中国・韓国の参加の可能性は著しく低い、としています。
中国の場合、人民元問題を抱えるような国が完全自由貿易を目指す枠組みに参加する可能性は低い。
韓国の場合、アメリカとFTA合意しているように、基本的に二国間で交渉できるFTAが国益になると判断しており、複数国間で調整が必要になるTPPにはメリットを感じないでしょう。

つまり、TPPに参加してアジア市場を取り込もうという目論見すら、怪しいと言わざるを得ません。

もちろん、ネクストイレブンあるいはVISTAに挙げられているベトナムなどに期待する、という見方はありますが、日本の輸出相手国となり得るほどの大きな市場は形成されていません。

さらに、TPPに早期参加することで日本に有利なルールづくりを進める、ということも考えているようですが、本書ではそれも否定されます。
交渉国に日本と利害が共通して連携できる相手国が見当たらず、結局アメリカがルールづくりの主導権を握るだろう、としています。






以上が、『TPP亡国論』の第1章概要です。
もっと要約できそうな気もしますが、眠たいのでこのへんで勘弁を・・・。

いずれにしても、TPP推進論者の論が非常に危うい、にもかかわらずマスメディアもそこには突っ込まず、農業関係者が日本経済の足を引っ張る存在であるというラベリングは危険です。
推進・反対いずれにしても、議論を深めないと相互理解もできないでしょう。


そういう舵取り、民主党に任せて大丈夫なんだろうか・・・。

TPP亡国論