”日本人”が好みそうなフレーズの前では「思考停止」
(c) Asadal☆|イラスト素材 PIXTA
風呂に入りながら『TPP亡国論』を最初から読み直してみた。と言っても、序章と1章の最初くらいだけど。
その中に、日本人は「開国/鎖国」や「自由貿易/農業保護」といったキーワードが出てくると途端に思考停止に陥り、論理的かどうかは関係なく、「だからTPPに参加しなければならない」という結論になる、という批判がありました。
グローバル化も”開国”も自由貿易もすべて一見すると、「良いこと」のように見えますが、「本当にそうか?」とふと立ち止まって考えることこそが大事なんだと思います。
これと似た構造で僕が不思議に思っているのは「ネアカ/ネクラ」、「明るい人/暗い人」。これも、「暗い人より明るい人の方がいいよね」というなんだかよくわからない”感覚”で判断して、「本当にそうか?」と考える人って少ない。
自分がネクラだから、というわけじゃないけど、ネクラは悪いのか?ネアカはそんなに素晴らしいのか?と思うわけです。
僕から見ても、TPPに関する議論、特に賛成派の論点て、そのレベルにしかなってないと思うんです。
スポーツのルールでさえコントロールできてないのに、よりシビアな経済ルールをコントロールできるとでも?
(c) デジ009|ストックフォト PIXTA
中野氏もどこかの動画で触れてましたけど、鈴木大地以降バサロ泳法が禁止になり、長野オリンピックの日の丸飛行隊以降、スキージャンプのレギュレーションが変わったり、近年のフィギュアの採点基準が変わったり、とにかくルールを都合よく変えたものが勝てるようになることは明白です。
もちろん、安藤美姫や真央ちゃんのように、不利益を被るルール変更にも負けずに乗り越えて大きな感動を与えてくれましたが、基本的なルールの部分は何も変わりません。
このルールの部分が、TPP以降で変わってくる可能性があるんですね。
それは極論すれば、僕も含め、あなたも「安藤美姫」なり「浅田真央」なりのレベルになることを求められるのと同義です。
でも、いろんな事情でそんなレベルになれない人、産業がほとんどだと思います。
だからこそ、それぞれの国では弱い産業や自国にとって極めて重大な産業を保護したりする一方で、強みが発揮できる産業を開放するわけですよね。
その交渉をクリアしていくのが外交政策であり経済政策だと思います。
そして、今回のTPPや、FTA、EPAだったりが国際交渉の場として用意されています。
FTAは基本的に2国間で、利害調整がし易い枠組みと言われていますが、そのFTAでさえ調整は難航しますし、米韓FTAのような事態が発生することもあります。
一方、TPPは10ヶ国程度が参加して議論するわけですが、まとまるのでしょうか?
まとまるとして、日本に有利なルール作りができるのでしょうか?中野氏が明らかにしたように、TPPは実質的に日米間の協定ですが、単純な政治力で言えば、アメリカに軍配が上がることは明らかです。
では、他の参加国がアメリカを向こうに回して日本を応援するのでしょうか?
これについては、中野氏が触れているとおりだと思います。
そもそも、スポーツのルール作りでさえ、いいようにされているのに、さらに大金が動く経済のルール作りではなぜ「日本の有利なルールとなるように働きかければいい」などと言えるのでしょうか。
日本が政治力・交渉力を発揮できるとは到底思えません。
人それを「匹夫の勇」という
TPPに関しては非常に悲観的な話ばかりしていますが、別に競争を否定するつもりはないのです。
ただ、思考停止した状態で、相手に有利なルールのマットにノーガードで突っ込むことは勇敢でも何でもない、ただの無謀。匹夫の勇というものです。
そんな無謀が許されるのは「神様にケンカをうってる一族だ」と嘯ける陸奥九十九だけです。
が、野田総理は議論に参加することは決めたらしいので、もう交渉から降りることは不可能でしょう。
走り始めたバスは終着駅まで決して止まりません。
あと、中野氏の出演されていた番組をYouTubeで見てがっかりしたことが一つ。
なぜ野田総理が結論を急いでいるのかといえば、オバマ大統領が国内で厳しい状況にあるので、TPPを手土産にして覚えを良くしたい、とそんな程度ですよ、と別のコメンテーターが話してたこと。
今後の地方都市の戦略
では、こうした社会情勢を受けて、基本的に打撃を受けることになるであろう産業を多く抱える地方都市は、今後5年あるいは10年の戦略をどう考えるのか。
(c) Graph-S|写真素材 PIXTA
それは、今パッと思い浮かべるとしたら、大字(=概ね公民館区)程度を基本単位として、
- 食料自給
- エネルギー自給
- 水(地下水)自給
- エリアにおけるソーシャル・キャピタルの分析と醸成
を段階的に実現していくことを目指すことが必要でしょう。
1,2は言わずもがな。生きていくために必要となりますし、3は今後ますます重大な問題として顕在化してくると思います。
北海道では既に問題化しているという話も伝え聞きますが、水も無限ではなく、しかも一度汚染されるとクリアされるまで数十年単位の時間を必要とします。口にできる水の自給圏を確保することは、生きていく条件であり、世界を相手とした時のビジネスの切り札にもなるかもしれません。
4は、要するに地域の強味と弱味を、一般的な地域資源ではなく、そこに暮らす人の「こころ」から明らかにしましょう、ということです。
こういうの、いろんな人と一緒に考えてみたいんですよね。
パラダイムシフトが現在進行形で起きている
(c) ちょび|画像素材 PIXTA
個人的な考えとして、これまでの5年間でパラダイムシフトが起き始め、と今後の5年間でパラダイムシフトがどうなるかがある程度見えてくる、重要な10年間だったと振り返るようになるのではないか、そんな風に感じています。
国内的には、昭和一桁世代がますます地域から減っていきます。人生の、日本の先達が持っているさまざまなノウハウ、生き様、知恵、知識が失われ、新しい局面に突入します。
さらに、エネルギーや食料の価格高騰も懸念されます。
そして世界に目を向けると今回のTPPです。
国の内外で大きな揺さぶり要因がこの5年10年に集中している、というのがパラダイムシフトが起きつつあると考える理由です。